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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)6807号 判決 1973年5月30日

原告 矢部恵生

右訴訟代理人弁護士 渡辺惇

右輔佐人弁理士 福田尚夫

被告 日栄電機産業株式会社

右代表者代表取締役 牧野十三男

被告 高木理器株式会社

右代表者代表取締役 高木光雄

右被告両名訴訟代理人弁護士 野田宗典

同 保坂紀久雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

「一 被告日栄電機産業株式会社は、別紙目録記載の物件を製造し、または販売してはならず、その本支店営業所および工場に存する別紙目録記載の物件ならびにその半製品(別紙目録添付図面の本体Aに回動自在に装着すべく仕上げられた二連筒部分)を廃棄し、同工場に存する別紙目録記載の物件の製造に必要な金型を除却せよ。

二 被告高木理器株式会社は、別紙目録記載の物件を販売してはならず、その本支店営業所に存する別紙目録記載の物件を廃棄せよ。

三 被告日栄電機産業株式会社は、原告に対し、金五〇四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年七月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四 被告高木理器株式会社は、原告に対し、金六七二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年七月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五 訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

≪以下事実省略≫

理由

一  原告が本件実用新案権の実用新案権者であること、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲が、「ヒーターHを内装した暖風送りの筒1とこれを内装しない冷風送りの筒2とを並設し、その一方の筒の筒口を若干外側へ反らせて他方の筒口と間隔を持たせるとともに両筒1、2の内部の分岐点に交互に通風を遮断する回転遮断板5を装着して成る二連式通風筒3をモーターM、ファンFを内装した本体Aに回動自在に装着したことを特徴とするハンドドライヤー。」であることは、当事者間に争いがない。

二  右争いのない実用新案登録請求の範囲と、成立について争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)中の「考案の詳細な説明」欄の記載および添付図面とを総合すると、

本件考案の構成要件は、

1  ヒーターを内装した暖風送りの筒と、ヒーターを内装しない冷風送りの筒とを並設し、

2  一方の筒の筒口を若干外側へ反らせて、他方の筒口と間隔をもたせ、

3  二本の筒の内部の分岐点に交互に通風を遮断する回転遮断板を装着し、

4  右1ないし3のようにしてなる二連式通風筒を、モーター、ファンを内装した本体に回動自在に装着した、

5  ハンドドライヤー

であると認められる。

三  本件物件か別紙図面および説明書記載のとおりのものであることは、当事者間に争いがなく、これによれば、本件物件は、

イ  ヒーターを内装した暖風送りの筒と、ヒーターを内装しない冷風送りの筒とを並設し、

ロ  一方の筒の筒口先端に区画壁を設けて、他方の筒口と間隔をもたせ、

ハ  右イ、ロのようにしてなる二連式通風筒をモーター、ファンを内装した本体に回動自在に装着した、

ニ  ハンドドライヤー

であると認められる。そして、本件物件には本件考案にいう回転遮断板がないことについては、当事者間に争いがない。

四  そうすると、本件物件は、前認定の本件考案の構成要件のうち、すくなくとも、3の構成要件を充足していないから、すでにこの点において本件実用新案権の技術的範囲に属しないものというべきである。

原告は、本件考案にかかるハンドドライヤーが従来のものと異なる新規な考案たるゆえんは、暖風筒と冷風筒を二連式に並設し、暖冷風を同時に送風することを可能にした点にあり、したがって、その点が本件考案の主要な構成要件であり、また、暖冷風を同時送風する以上、暖冷風が混流しないようにすることが必要であるから、一方の筒口を若干外側へ反らせて他方の筒口と間隔をもたせることも重要な構成要件であるに反し、回転遮断板の存在および二連式通風筒が本体に回転自在に装着されることは、本件考案の基本的技術思想にかかるものではなく、構成要件ではあっても附随的なものであるから、回転遮断板を欠いていても、その他の点では本件考案の構成要件の全部を充足している本件物件は、本件考案の技術的範囲に属すると主張する。しかしながら、本件考案において、回転遮断板の存在することが仮に原告主張するように附随的な構成要件であるとしても、構成要件であることに変りがないことは前認定のとおりであるから、その構成要件を欠く本件物件は、本件実用新案権の技術的範囲に属しないものとしなければならない。本件考案において、回転遮断板を装着することが構成要件であるとすることと、回転遮断板を装着しなくてもよいということとは明瞭に矛盾するものであるから、原告の右主張は理由がない。

五  原告は、さらに、本件物件が、回転遮断板がないという点で、本件考案の構成要件を充足していないとしても、本件物件は本件考案にかかるドライヤーより作用効果の点において明らかに劣っているのであり、また遮断板を除外したことによりなんらかのすぐれた作用効果を伴うということも全くなく、本件考案の基本的部分の構成をそっくり利用しているものである以上、いわゆる不完全利用論の立場から原告の本件実用新案権を侵害しているものというべきであると主張する。原告のいう不完全利用論なるものがいかなるものであるかはかならずしも明らかではなく、不完全利用の概念がすでにわが国において定着しているものであるということもできないから、原告主張の意図がかならずしもはっきりしないが、すくなくとも、ある発明なり考案なりの基本的な構成部分であると目されるものを欠く発明や考案は、その作用効果が前者の発明・考案の作用効果と同一であるような場合はもちろん、それより劣るものであっても、前者とは別個の発明・考案を構成すると解すべきものであることは明らかである。ところで、前掲甲第二号証の本件実用新案公報の記載によれば、前認定の本件考案の構成要件中1および3が本件考案の基本的な構成部分であり、同2および4は、むしろ原告のいう附随的な構成要件であると認められる。このことは、前掲甲第二号証中の「考案の詳細な説明」の項中にも、構成要件2の「一方の筒の筒口を若干外側へ反らせて、他方の筒口と間隔をもたせ」た構成の作用効果についての記載は全然なく、作用効果については、回転遮断板を装着したことによるそれの説明に大部分が割かれ、また、二連式通風筒を本体に回動自在に装着したことの効果の記載にわずかの部分が割かれているにすぎないこと、さらに、従来の通風筒が一つであるドライヤーに比べて、本件考案において通風筒を二連式にしたことの特徴を強調している点をみても明らかである。原告本人は、回転遮断板を装着することは本件考案の基本的な構成部分ではないかのような供述をしているが、これを支持するに足りるような資料は他にはなく、右供述部分は採用できない。そうすると、本件考案における基本的な構成部分であると考えられる回転遮断板の装着を欠く本件物件は、本件考案とは別個の考案であって、本件実用新案の技術的範囲に属さないものであるといわざるをえない。

六  以上のとおりであるから、本件物件が本件実用新案権の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒木秀一 裁判官 高林克巳 清永利亮)

<以下省略>

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